「あしながおじさん」原作のジルーシャとジャーヴィス二人だけの舞台。
もうね、なんつー幸せな気持ちにさせてくれる舞台かと。
ぶわっと嬉しくて楽しくてときめいて笑ってしまうこの感じ!
以下ネタばれあり感想。
孤児であるジルーシャが、自分を大学へと進学させてくれた謎の「あしながおじさん(ダディ・ロング・レッグズ)」へ綴る手紙のみでお話が進められる原作。
「ダディ・ロング・レッグズ」が誰なのか、最後の最後まで分からないのが原作の面白さなら、
最初から「ダディ・ロング・レッグズ」の正体が観客には丸わかりの状態で、
原作では想像し得なかったジャーヴィスの喜怒哀楽やもだもだと苦悩を、
神の視点で存分に楽しんでしまえるのが舞台版の魅力だと思いました。
なんて言いますか、まだ誰もいない舞台を目にしただけで、既に小さなときめきが。
舞台後ろ側にジャーヴィスの書斎があり、手前にジルーシャのスペースがあり、
大小のトランクが幾つも積み上げられて、一体この空間でなにをどうやって表現していくんだろうと。
床から天井まであるジャーヴィスの書斎の本棚(はしご付き)、小さな仕事机に古い電話機、電信用のタイプライター。
書斎の響きだけで3時間くらいは「私の夢の書斎」について語れそうな気がしますが、
とりあえずはぎっしり詰まったジャーヴィス坊ちゃんの本棚の目録を公開して欲しいです。
舞台はこの装置が固定で、たったこれだけの空間が、
大小のトランクを移動させて並べたり積み上げたり崩したりすることで、
ジルーシャの孤児院、大学での部屋、医務室のベッド、農場、岩山、友人の家……にぐんぐん変化するんです。
本当にぐんぐん!
書斎と部屋の窓を開けてそこから光が入り、窓の外に緑が広がり、ここが農場だと場面が変わるシーンがすごく印象的で好き。
ジルーシャの明るく小気味よい声ときびきびとした動きに本当に色んなところに違和感なく連れて行って貰える。
ジルーシャから「ダディ・ロング・レッグズ」に宛てた手紙でセリフが構成されているので、
ジャーヴィスの言葉はすべてジルーシャの綴った言葉で、
それなのにずっと観ていると二人がぽんぽん会話をしているように聞こえるんだから不思議。
ジルーシャが、努力家で、いい意味での野心家で、自分の世界を広げてくれた「ダディ・ロング・レッグズ」に心の底から敬愛と感謝の気持ちを持ち、彼にとって恥ずかしくない自分であろうとする姿はいじらしかったり、
手紙の返事は書かない約束になっている彼の、せめて「はげかそうでないか」くらいは知りたい、という願いはただただおかしかったり。
彼女の文章の面白さに惹かれて気まぐれに始めた支援だったのに、
ジルーシャの綴る最大限の喜怒哀楽に溢れた日常に次第に感化されていくジャーヴィスの様子は、
観客からすればにやにやと見守るしかないわけです。
大学に入ったジルーシャが、これまでに読んだことのなかった本のタイトルを書き連ね、
ジャーヴィスが自分の書棚からそれらの本を引っ張り出して、読み耽ってしまうところは今後を予感させてとても好き。
ジルーシャからの手紙が、一枚、一枚と書棚に留められていって、
時間の経過と共に書棚にたくさんのジルーシャの言葉が並んでいる演出も素敵。
とうとう我慢ができなくなって、彼女の「ダディ・ロング・レッグズ」ではなく、
ジルーシャの同級生の叔父として、大学まで会いに行ってしまう辺りから彼の春と苦悩が始まるわけですが。
ともすれば資産家(施す側)故の傲慢さと捉えられなくもないジャーヴィスの取る行動のあれこれが、
年の離れた少女に心惹かれて、年甲斐もない嫉妬や感情に振り回され、
思い通りに動いてくれない少女に苛立ち、
与えていたはずの施しが、実は自分にこそ与えられ続けていたことに気付き、
どうしたら彼女と対等になれるのか分からないと肩を落とし頭を抱える様に
何故か憎めなくなってしまうのは、この演出故か、役者さんのうまさ故か悩みます。
だってね、ジルーシャがダディ・ロング・レッグズになんでもかんでも報告をするから、
ジャーヴィスには彼女の休暇予定も、気になる人の存在も、悩みも、筒抜けなわけですよ。
恋敵の存在にあわあわして、彼女が恋敵と過ごすことのないよう夏休みの予定を無理やりダディ・ロング・レッグズとして決めてしまったり、結構むちゃくちゃするわけですよ。
そして自分はジャーヴィスとして登場して、彼女の手紙に自分の名が増えることを喜んでみたり。
この人原作だと27くらいのはずなんですけど、ホントに大人げないな……(笑
いや、まあ、でもね。
一回り以上年下のとびきり元気な女の子にすっかりやられている男の人、というのはどう考えてもおいしい話です。
恋敵に対抗してクリスマスプレゼント17個も贈って、送り返されてへこむとか、どうかしている(笑
この辺りで完全にジャーヴィス坊ちゃんへの感情が「この人かわいい」になっているから仕方がない。
でも、ジルーシャはどんどん大人になっていって、
家庭教師のバイトをして、物語の原稿料を得て、ダディ・ロング・レッグズにこれまで自分に投資してくれていたお金を返そうとする。
「孤児院を舞台にしたお話の利益を寄付して、いつか私があの孤児院の理事になったら、そうしたらあなたは今度こそ私に会わなくちゃいけませんよね。一生懸命考えたんです」
あのセリフは、ジャーヴィスを心底参らせたんじゃないかな。
私はジルーシャの言葉の切実さにやられました。
彼女にとってダディ・ロング・レッグズがどれほどの存在か。
彼女に対して常に「与える立場」にあったはずのジャーヴィスが、
本当は自分こそがダディ・ロング・レッグズとして彼女から与えられてばかりで、
自分は彼女に与えることができなかった、と気付き歌う苦悩。
正体を隠したまま会い続けてきた彼の自業自得とも思うんだけど、
彼女と対等でありたいというとても誠実な感情が滲み出ていて、
彼こそが救いを求めている様が、こう、胸にくるものがありました。
ずるいんだけどね。
なんか、ずるいんだけど、弱っている男の人というのはよくない。
ジルーシャはなんだかんだ、そこに絆されてしまったような気がしなくもない(笑
一回観たきりなので、ここの辺りの記憶がぼやぼやで、本当にこういう感情の流れだったのかどうか自信がないです。
が、このジャーヴィス坊ちゃんの歌う「チャリティ」という曲と、
ジルーシャがジャーヴィスへの想いを切々と書き綴ったあの手紙の場面でそれぞれの気持ちに泣きました。
最後にジルーシャがジャーヴィスの正体を知ったときの
「あの手紙を読んだの?」
「プライベートな手紙なのよ!」
「禿げても、年寄りでもないわ!」
が愛しすぎる。
僕が全面的に悪いです、有罪です。の全面降伏の体でジルーシャに対峙した坊ちゃんですけど、
本当に許して貰えて良かったよね。
二度目の求婚で、一度目と同じように跪いたジャーヴィスと視線を合わせるために、ジルーシャも膝をつく。
ダディ・ロング・レッグズとジャーヴィスがあの瞬間にジルーシャの中でちゃんとひとりの人になったんだろうな。
はーーーーー。
もう、本当におめでとうございました。ありがとうございました。
幸せでした。
何度でも観たい舞台。
せめて、映像化して下さらないかなと思いつつ。
ミュージカル苦手でなければ本当にお薦めです。
↓
ダディ・ロング・レッグズ プロモーション
コメント
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こんばんは。舞台の噂を何かで見ていましたが、行かれたのですね〜。
「あしながおじさん」は子どもの頃から大好きな物語で、もはやバイブルのような存在なのですが(笑)。書簡だけであんなに生き生きと楽しいお話ですから、実際に舞台で目にしたらにまにましっぱなしかもしれません(*^^*)
私の持っている新潮文庫版には、表紙見返しにフレッド・アステアが出演したらしい映画の写真が載っていて、それもどうにかして見たいものだ…と未だに思っています。だって絶対素敵だ!
ところで、「あしながおじさん」も大好きですが、もし「続あしながおじさん」が未読でしたらぜひ!こちらもとても面白いです。
あぁ、好き過ぎて語ってしまいました…長々とスミマセン。
近かったら舞台、見たかった〜!
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こんにちは。
さらだ、と申します。
河上さんの作品は拝読していて、どれも私にとってはとても大切な出会いで今でも読み返しています。なので、なんとなく初めまして、な感じが(勝手に)しませんが、初めてコメントさせていただきます。
「ダディロングレッグズ」の感想を拝見して、そうなの、そうなのよね!と文章を前にごろんごろんとしつつ勢いづいてコメント書かせていただいています。
ダディの舞台も、役者さん二人も大好きで、その作品について河上さんが丁寧にあたたかく感想を書いてくださったのが(これまた勝手ながら)嬉しくて。
いい意味での貪欲さ、あくなき探究心と向上心で、キラキラひらひら舞う言動で花開くジルーシャと、それに影響され振り回されるジャーヴィスが愛おしくてたまらなくなる舞台でしたね。
孤児院から大学に行って、休み時間の方が苦労するといったジルーシャ。同年代の女の子たちの中にいても「異邦人」だと言う彼女の中に、ジャーヴィスは社交界で(ペンドルトン家で)異質な自分を見つけたのかな、と思いました。小さな突破口が、どんどん彼と彼女のリンクを増やしていくのを丁寧に描く舞台が、観ていて気持ちよくてあたたかさにに満ちて幕が閉じるのがしみじみ幸せでした。
河上さんの感想に、嬉しさにまかせてとりとめのないコメントを失礼いたしました。
ブログでも、作品でも、河上さんが言葉を紡がれるのを楽しみにしています。
まだ寒い日が続きますが、どうぞご自愛ください。
素敵な春を迎えられますよう。
さらだ
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かなん様>こんばんは。行ってきました~!
昔、アニメでも観ていたはずなのですがそちらの記憶はおぼろげで、
原作もとても好きだったのですが、これほどのときめきは当時覚えていなかったと舞台を観ながら思いました(笑)
舞台はもう、存分にジャーヴィー坊ちゃまの一挙手一投足ににやにやさせて貰う楽しい舞台でした。
私の年齢のせいも大いにあるでしょうが、
原作では見えなかった各手紙を読むジャーヴィスの姿がそこにあるせいで、
感情移入も容易く、ジャーヴィスの気持ちにも深く入り込んでしまいました。
私も新潮文庫版を持っています!
かなんさんのお言葉に見返しをめくりました。
本当に見てみたいですね。
「続あしながおじさん」も素敵ですよね。
「私の心が鉄でできているとお思いですか?」
の言葉は、子供心にとてもどきどきして、この舞台を見終わってから改めてまた読み直したのですが、
今になっても、と言うより、今はより一層どきどきしました(笑
静かな中にも熱を感じさせる告白で、サリーと「敵」の関係もすごく楽しいですよね。
いえいえ、どんどん語って下さい。
楽しかったです!
いつか機会があれば、是非! と、おすすめします。