ネタバレ全開です。
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単館系じゃなくて、全国系列の大きい映画館で上映したらいいのにと思ったけれど、
雰囲気や空気を考えると、単館系のあの小さな箱の方がいいのかもしれない。
毎朝、何時間もかけて学校を目指す子供たちの姿を追ったドキュメンタリー作品。
ケニア、アルゼンチン、モロッコ、インド。
辺境の村や住まいから、彼らは学校へ向かう。
ただその道程を追うだけのドキュメンタリーに、想像を絶する景色が見える。
ケニアのジャクソン(11歳)は妹のサロメ(6歳)を連れて、
野生のキリンや象の走るサバンナを2時間も駆けていく。
父親が危険を避けて行く道をジャクソンに教え、道中が安全でありますようにと神に祈りを捧げ
子供らを送り出す場面。
毎年、野生の象に襲われて亡くなる子供たちが居るんだそうだ。
水のタンクを持ち、木の杖を手に小走りに近い歩き方でずんずん進んでいく兄妹。
ここまでで既に圧倒されているんだけど、彼らの通学路のその景色。
どこまでも広がる茶色の地平。枯れた色の草に、点在する木々。小さな兄妹の前方に壁のように群れているキリン達。
それを険しい表情で見つめ、「危険だから遠回りしていこう」と妹を促し、
時には岩に上り妹の頭を引き寄せ「あの木の間に象の親子がいるだろう?」と、常に周囲に注意をはらい、
道を選んでいく。
ジャクソンの横顔は子供ではなく妹を守る「男」そのもので、けれど、ふと漏れた言葉。
「一人じゃなくてよかった」
6つの妹は彼にとって守らなければならない存在。
でも、妹が学校に上がるまではきっと彼は一人でこの地を駆けていたんだろう。
それは、どれほど心細くて、怖ろしいことだろう。
早く歩け、と妹を振り返りつつ、象にかちあった時には妹を伴い安全な場所にひたすら駆ける。
地面の落ち窪んだ隠れ場所で二人が身を寄せ合って、ひたすら縮こまっている。
お兄ちゃんの肩に額を押し付けて、涙目で
「お兄ちゃん、象がいないか確かめて」
と訴えるサロメ。
すっかり元気をなくした妹に、果物をとってやるジャクソンはやっぱり頼れるお兄ちゃんなんだな。
ここで二人が歌いながら行くんだけど、
この演出はよくない。涙腺決壊スイッチみたいな歌だわ。
そうやって学校に冗談抜きで命がけで辿り着いて、そっから授業が開始とか。
ジャクソンは、勉強して、将来は自分の国に貢献できる人になりたいと言った。
同じく妹がいるお兄ちゃん、アルゼンチンのカルロス(11歳)。
この子、既にイケメンの風格があるんですが、将来どんな大人になるのかと考えてしまいました。
こっちは5歳の妹を連れて、毎日1.5時間の道のりを馬で行く。
サバンナもそうだけど、この子たちの道中もひたすらパタゴニアのだだっ広い山と平原しかない。
人も誰もいないんだよ。
彼らが出かけるときにも、父親が赤い布紐を渡して、彼らの道中を神様が守ってくれるからと送り出す。
途中、小さな祠があって神様が祀られている。
カルロスは父親から手渡された赤い紐を捧げて祈り、妹のミカも小さな手を合わせて何事か祈る。
このミカちゃんが、「お兄ちゃん、私を前に乗せて」って頼むのが可愛い。
お母さんに怒られるから駄目だ、ってカルロスは言うんだけど、結局途中で折れてミカを鞍の前に乗せてあげるんだよね。
それで、自分が手綱を引いてあげる。
カメラに映ってるから、あとでばれちゃうよ、とちょっと笑っちゃった。
しばらくしてミカが満足したらまた自分が前に座って馬を走らせるんだけど、
ある場所でふと止まる。
学校なんてまだ影も見えない、平原の真ん中で。
なにしてるんだろうと思ってたら、彼らの視線の先にぼんやりと影が。
馬に乗ったお友達と待ち合わせキターーーーーー!!!!!!
なんだそれ。
かっこよすぎだろう。
そういうこと思う場面じゃないんだろうけど、
二人お友達がいらっしゃって、馬上で互いにぱんぱん、と手を打ち合って
「はよ」
「おはよ」
じゃ、行くか、て三頭が並んで学校目指しはじめるんですよ。
彼らにとっては日常の、なんでもない静かな場面なんでしょうけど、
私はひとりすごく興奮しました。
待ち合わせ場所、なにを目印にしてるの。広大すぎるわ。
カルロスは自分が生まれた土地にずっと居ると決めていて、将来は獣医になって地域のために貢献したいんだそうだ。
このドキュメンタリー唯一の女の子、モロッコのザヒラ(12歳)。
女の子に教育は必要ないという考えが今も根付く村で、
おばあちゃんや両親が、教育は必要だとザヒラを学校に通わせてくれている。
毎週月曜日、4時間!!! もかけて学校まで歩いていくザヒラ。
途中お友達二人と合流して、ひたすら歩く。
深い谷や、遠くに連なる山々。どこまでもどこまでも広い空。
彼女たちの目に、あの景色はどんな風に映り、また、あの景色を見て育つと、どういう感性が生まれるんだろうとか、
そんなことを考えていた。
世界は大きくて雄大なものに満ちていて、人はとても小さいんだなと何度も感じる景色。
途中友達の一人が足をひねって、通りすがりの人(滅多に通らない)に車や動物に乗せていってとお願いするんだけど、
大人も仕事で忙しいんだよね。
お前らに構ってる暇はないんだ、とどんどん通り過ぎていく。
冷たいとか、子供が困っているのに、とか、そういうことじゃないんだなと伝わってくる。
少し車通りのある場所に辿り着いて、ヒッチハイクを何度も試みて、
「このままだと遅刻しちゃうよ」
とか言い合ってるのが、妙におかしかった。
そうか彼女たちは学校へ行く途中なんだった、と改めて気づかされる感じ。
でも彼女たちにとっては、なんとか遅刻しないように必死でヒッチハイクするのは日常なんだよね。
そう言えばザヒラが家から生きた鶏をずっと鞄に入れて提げていて、密かにドキドキしていた。
いや、あの、4時間もかけて歩くって書いてあったから、途中でおひるご飯に捌きはじめるんだろうかと。
街に出たら、市場で物々交換してた。
なるほどな。
一週間全寮制の学校で勉強して、彼女たちは金曜日の夕方にまた同じ道を歩いて家路に着く。
教育が女性にとっても大事だと考えるザヒラは、村のほかの女の子たちにも学校へ行くよう説得をしている。
医者になって、地域の人々のためになりたい、と言う。
インドのサミュエル(13歳)は、足に障害があって車イスの生活。
弟が二人いて、学校までは、この弟二人がサミュエルの車イスを引いたり押したり、元気に歩いていく。
おんぼろ車イスは、タイヤが壊れたり、近道しようとして川にはまってみたり、大騒ぎだ。
見ていて何度も笑顔になってしまうのは、
弟二人が兄であるサミュエルのことが大好きだと画面を通して伝わってくるからかな。
自分の体ほどもある車イスに兄を乗せて、小さな体で引いたり押したりするのは想像する以上に大変だろう。
でも、小さな弟たちにとって、兄と一緒に学校へ行くのは当たり前のことで、
タイヤが壊れたら修理する場所を探して、川にはまったら歯を食いしばって脱出して。
「遅れちゃうから早く行こうよ」
とそれぞれ言い合い、笑いながら学校を目指す。
「なにも持たずに生まれて、なにも持たずに死んでいく。
人間って、そうだろう?」
生まれて13年。
動かない足を持ち、健常者である弟たちや母に囲まれて育つ中で彼が得た人生観なんだろうか。
とても綺麗な目で、
彼は医者になって、自分のような子供たちを助けたいと言った。
映画のあおりにもあったけれど、
彼らに共通しているのは、学びがとても「有り難いもの」であるという意識。
学ぶことが自分の将来を切り開き、未来を掴み取るための手段なのだと、はっきり自覚していること。
人のために、地域のために、国のために役立てようと考えていること。
当然のように学びの門が開かれていた私にはなかった強い感情に、
はっとさせられたり、彼らの光に溢れた目を真正面から見られないような気持ちにもさせられた。
もうひとつ、つらつら思ったのが、各家の両親の子供たちへの信頼。
あれだけの道程を行く自分の子供たちを、神に祈り送り出すのは、
そうするしか仕方がないという面もあるだろうけど、
それよりも、子供たちへの信頼が強くあるんだろうと思った。
危険を回避する力、察知する力、兄弟を守る力。
命がけの通学路へ、「行ってらっしゃい」とただ送り出すためには必要不可欠な、子供たちへの信頼。
無事に帰ってくることを信じる、あれもまた愛情の形だろう。
彼らの夢が叶いますように。
学びたい、と強く願ったことはあるか、と自分を振り返る作品でした。
機会があれば、是非。
コメント
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初めまして。いつもこっそりと拝見させて頂いておりますが、こちらの映画を見に行ってきましたので感謝の意をお伝えできればと思いました。私自身、余り映画には造詣が深くなく、巷で大変なヒットとなっても見に行かないまま終わってしまうことも少なくありません。ですが、こちらの映画を知った時に、是非見に行きたいと思いまして、友人を誘って行ってくることが出来ました。テレビでも取り上げられていたようで、満席になっていましたが、無理してでも見に行ってよかったなぁとつくづく思う映画でありました。紹介してくださってありがとうございます。確かに、カルロスくんはイケメン風情でしたね。学べるって素敵なことだなぁと改めて思います。
長々と失礼しました。こちらの作品も大好きで、何回も読み返しては、涙してしまいます。そんな朔さんのオススメするものは私にとって外れがないものです。
段々と暑くなってきております。体調には十分にお気をつけてお過ごしください。
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皇杏那様>はじめまして。遊びに来て下さってありがとうございます!
自分が観て色々と込み上げたものを書き連ねたい気持ちがあったのですが、
とても素敵な映画でしたので、ひとりでも誰かに知って貰えたらなという気持ちもありましたので、
今とっても嬉しい気持ちでいっぱいです。
知らせて下さってありがとうございます。
満席になっているんですね。
ロングランになればいいな~。
カルロスくん、イケメンでしたよね! 妹のミカちゃんも美人さんでしたし。
私もしみじみと、学ぶことができるって幸せなことなんだと今更思いました。
素敵なドキュメンタリーに出会えて良かったなと思います。
皇杏那様も、なにかオススメがありましたら是非、教えて下さいね。
拙作も少しでも楽しんで頂けているなら幸せです。
お互いに元気に初夏を迎えたいですね。
書き込みをありがとうございました。