というのが今日の24時(11日0時)から始まるそうです。
(※嘘をつきました。12日0時スタートだそうです!!ごめんなさい><)
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http://0eiga.com/
知らなかったんですが、映画にもパブリックドメインというのがあるんですね。
平日0時開催はきついけれど、観たい!
金曜日放送を狙うかなと思っています。
皆で、同じ時間にこの古い映画を観ようというのが楽しいんだろうな。
タイトルだけ聞いたことがある、という映画なのでぜひ観たい。
今日から「夜の写本師」を読み始めたのですが、夜と闇に引きずり込まれそう。
七色の闇、という表現に撃ち抜かれた。
昨日はwwの小ネタというか未消化分を出したので、
今日は「楽園のとなり」から。
第2章1と2の間のシンク視点。
友達がシンクのことを「シンクたん」と呼ぶので、うっかり脳内でそう呼びそうになる。
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くっと顎を引いて険しい表情で表に出て行ったカンナの後ろ姿を視線だけで追いながら、シンクは驚いた様子でテーブルに近づいてきたサシャに顔を向けた。
「あいつ情緒不安定なのか?」
あのラキという男が現れて、体がわずかに強張っていた。カンナと出会って日は浅いが、それでもあんな表情は初めて見た気がする。緊張していた。
シンクが当たりのカップを手渡すと、サシャは目を丸くして、これあなたが当てたの? と訊いた。
「これを見て、怒ったみたいだ」
シンクの返答に、サシャは眉を下げた。
「あの、怒らないでやって。ちょっと、試験のことに関してはカンナは繊細にならざるを得ないの」
「試験?」
「聞いていない? 王立騎士団の試験のこと。年に一度の試験がもう来月でしょう」
ああ、とシンクは曖昧に頷いてみせた。そんなこと自分が知っているわけがない。だがサシャはそれで納得したらしい。
「このチョコレートもね……カンナは何も言わないけど、本当は入団試験までに一度は当てたいと思ってるの」
「これを?」
サシャがもう一杯チョコレートを淹れましょうかと言うから、シンクはできるなら紅茶にして欲しいと頼んだ。甘くて胸が焼けそうだ。
すぐにサシャが紅茶を運んできて、シンクの隣に立ってひとつ息を吐いた。
「少し、話をしても?」
面倒だと思ったが、仕方がない。シンクはどうぞと促す。
「この時期に街を案内するくらいだから、あなたとカンナは親しいのね」
今、怒鳴って出て行った姿を見なかったのだろうか。頭が少し弱い女なのか、とシンクはひとり心の中で頷いた。
「あの子、次の試験で四度目でしょう」
「そんなに」
面白半分に呟くと、サシャの瞳はさっと強い光を宿して、シンクを正面から見据えた。
「聞いていないの? カンナに落ち度があったことは一度もないのよ。人を助けていたり、別の人の不正に巻き込まれたり、事故としか言いようのないことばかりが重なって、何故か試験が受けられなかったり、試験そのものがなくなったりしたの。本当だったらカンナはラキと一緒に試験に合格して、今頃ラキたちと同じ制服を纏っていたはずだもの」
「運が悪いんだな」
ごく正直な感想に、サシャは顔を曇らせた。
「……そういうことを、お願いだからカンナの前で言わないでね。そのことを一番感じているのはカンナなんだから。あの子がどれだけ今まで努力を重ねてきたのか、皆知っているの。どれだけ王立騎士団に入りたいと思っているのかも」
「でもあいつは自警団員なんだろ?」
そんなにも王立騎士団員を目指しているなら試験に備えて然るべき準備をするべきだろう。わざわざ自警団員などになって身を危険に晒すような真似をするのは馬鹿だ。
学校に通うことができるのは、三年間だけなのよとサシャは静かに言った。
「王立騎士団の入団試験は十四歳から受けられるの。十四で合格した子たちは、予備隊と呼ばれる部隊に配属されるわ。要はまだ幼いから、そこで正規部隊に入るまで勉強するのよ。正規部隊への入隊が許されるのは十六歳からで、ラキたちがそこに配属されて今年で二年目になるわ。予備隊から入団している騎士たちはやっぱり受けている訓練が違うから、将来的にも出世する確率が高くて、だから王立騎士団への入団希望者はなるべく若い内に試験を受けようとするの」
「なるほどね」
「カンナはもう十七だから、入団するなり正規部隊に振り分けられるわ。そのときに、ラキたちに遅れないように、自分なりに実戦経験を積んでおきたいと考えて自警団に入ることを決めたのよ」
道理でカンナが洗練された動きを見せるはずだ、とシンクは合点した。あれは、武術学校で身につけたものだったのだ。今まで旅をする先々で目にした自警団員たちとは動き方がまるで違う。もちろん、武芸の基礎をきちんと身につけている人々もいたが、ごく少数だった。大抵はシンクから見れば異常なほど筋肉を鍛え上げた男たちが、力任せに腕や足を振り回しているという印象が強い。
武術学校に三年、自警団に約一年。強いはずだ。
「あんなに一生懸命努力しているのに……神様は、時々意地の悪いことをなさるわね」
「……」
突然なにを言いだすのだろうと視線を送ると、どうやらそれは知らずこぼれ落ちた言葉だったようだ。サシャは慌てて口を押さえてふふとばつが悪そうに微笑んだ。
「カンナは優しいでしょう。あなたにこんなことを言うべきでないことは分かっているんだけど、ラキの言っていた通り。本当は、この大事な時期にあなたに街案内をしている暇は無いはずなのよ。でも、そうね。私は少し安心したわ。この前の試験が受けられなかった後、あの子しばらくまともにご飯を食べられなくなっていたし、眠れなくなっていたの。今回も試験のためにって自警団を辞めてしまったけど、神経質になって試験のことばかり思い詰めるより、少し気の逸れることがあった方がいいと私は思うから」
つるつるとよく喋るサシャに言葉を無くしていると、あ、でもねとサシャは悪戯っぽく笑った。
「あの子が怪我をするようなことに巻き込むことだけはやめてね。外街へ遊びに行きたいなんて絶対に言わないで」
それだけ覚えておいてね、と極めて明るい調子で言うとサシャはカウンターへ戻っていった。
(よく喋る女)
ようやくひとりになれたシンクは、ゆっくりと背もたれに寄りかかりながら不機嫌に独りごちた。どうでもいいことを、際限なく聞かされてしまった。不愉快極まりない。
硝子張りになっている店の正面を見遣れば、日の当たる表通りを人々が行き交っている。誰もが笑っていて幸福そうに見える。そんなものをぼんやりと見ている自分。一週間前には想像すらしていなかった光景だ。
今まで旅をしてきて、こんなにも人と関わってしまったことはない。成り行きとは言え他人とひとつ場所で生活を共にすることも久々で、あの空間はとても奇妙だ。
(カンナ・バーレ)
シンクの脳裏に、こちらを睨み付けたり怒鳴りつけたりしているカンナの姿が浮かぶ。
身長は自分とさほど変わらず、動きやすいことだけに重点を置いた格好をしている印象しかない。サシャを見て、そういえばカンナがスカートをはいていないということにやっと気づいたくらいだ。夏の新緑を思わせる瞳は猫のような吊り目で、よく動き、感情がそのまま表れる。衣服から伸びた手足は鍛えられていて、きれいに筋肉がついているのだがその理由は先程分かった。小柄な癖に馬鹿力。
外街で倒れていた自分を背負って運んだというのだから、恐れ入る。
シンクに自身のベッドを明け渡して、自分は奥の小さな部屋に閉じこもっている。鍵がついているとかで、近づいたら叩き潰すと言われたが、元からその気はない。夜遅くまで扉の隙間から明かりが漏れ、ぶつぶつとなにかを呟いていると思ったが、なるほど、試験勉強をしていたのだ。
カンナはシンクに対しての警戒を解いてはいないように見せてはいるが、ほとんど意味がないように思う。そもそも倒れている見知らぬ人間を拾って連れ帰る時点で、警戒心など無いに等しい。あれを人は優しさと呼ぶのだろうか。
今はとにかく怒ってばかりいるが、シンクの意識が朦朧としていた時、何度も何度も大丈夫だからと繰り返していたのはカンナだ。本当に、そこにはなんの打算もないのだろうか。礼金が欲しいのかと渡した籤も突き返され、呆れた顔をされたのは覚えている。だが、親切心とお節介の境は曖昧で、カンナの勢いがシンクには鬱陶しい。拾って看病してくれたことには礼を言わなければならないだろうが、金を渡すから後は放っておいてくれというのが本音である。
紫神官である自分を助けることで生じる益があると考えているのかとも思ったが、どちらかと言うと、シンクが紫神官を騙っているのではないかと疑う気持ちの方が強そうだ。自分が紫神官だろうがそうでなかろうが、他人のカンナにはなんの関係もないはずなのに、どうしてああも関わってこようとするのだろう。もしシンクが本当に紫神官を騙っていたとして、そんな人間に出会ったら、距離を置いて関わりにならない限る。それが、自警団員としての使命感からなのか、王立騎士団員を目指す者としての正義感からなのか。甚だ厄介だが、あれに助けられていることも事実だ。
あの少女はシンクが目覚めてからいつも怒っているが、決してシンクを放り出す真似はしない。カンナを置き去りにして逃げたシンクの手を掴んで、結局追っ手から逃げのびた。正直シンクは、走っている途中の記憶がほとんどない。ただあの少女に引きずられるようにして足を動かしていただけだ。だが、マントに隠れた自分の左手首にはカンナの指の痕がくっきりと残り、絶対に離さないのだというカンナの気持ちがそのまま宿っているような気がして、シンクは小さく身じろいだ。
まあ、カンナがどんな少女だろうと何を目指していようと自分には関係がない。せっかく、失いかけた命を拾ったのだ。早くこの街からも逃げ出して、自由になりたい。
そう、逃げ続けなければ。
(ザンザック――なにを考えている?)
小さく息を吸い込み、シンクは手の内で遊ばせているカップの白い肌を見つめた。ぼんやりと自分の影が映っている。
あの日、エトの教会からあの喧噪の中を逃げ出し、宿に寄ることもせずにそのまま街を後にした。ザンザックが追っ手をかけたのは直後のことだったのだろう。
恐らく、殺されようとしているのだと思う。神問の儀式の結果を不服として紫神官に結果の撤回を要求、もしくは、神問の儀式そのものをなかったことにしようと、紫神官そのものを亡きものにしようと考える者もいるとかつて神学校で教わったことがあったが、実感を伴ったことはなかった。だが、ザンザックの怒りは本物でシンクを追ってくる男たちの殺気も本物だ。
『ザンザック様が、直々にお前と話をしたいと仰っている。ありがたく思って出てこい』
何度か接触しかける度にそんなことを言っていたが、あの手の男が、シンクを再び招き寄せて穏便に事を済ませようと考えているはずもない。
もしくは、シンクを殺さずに捕らえてこいと命じる、なにか他に目的があるのだ。
(他の目的――)
シンクの目の前には、先程「当たり」と告げられたカップ。底に星の形、などという子供騙しでも当たりは当たりだ。
同時に、たった一枚の太陽の刻まれたコインを、あの巨大な箱の中から取りだした自分を思い出した。シンクを、射殺すような視線で見ていたザンザックを思い出す。
(……まさか、な)
じわりと掌にかいた汗をごまかすように、マントの裾で拭いた。胸元を探っても慣れた感触のものがないということが、これほどまでに自分を不安にさせるものだとは知らなかった。
明日、あのウィーとかいう子どもから指輪を返して貰ったら、この街を出るのだ。
「ここから一番近い籤売り場は?」
サシャに場所を聞くと、シンクは迷いのない足取りでそこを目指した。目当てのものを手に入れ、また同じ道を戻る。内街の整備された道は、一度通れば迷うことがない。
店の前に立つと、ちょうどカンナが硬い表情のまま戻ってきたところだった。いつ見ても敬遠したくなる、軍人特有の背中に板でも入っているような姿勢で歩く女。
あんな雰囲気を纏っているのに、カップの底の星ごときであんなにも感情を揺るがせるのかと思うと奇妙な気がした。女はやはりよく分からない。
金で動きそうならこの街を出るまでの護衛を頼んでも良かったが、そういう融通は利きそうにない。もしかしたら、さっきの当たりのカップの方がカンナにとっては取引価値があるのかもしれない。ちらと想像してみたが、申し出た途端にまた怒り狂いそうな気がしたので、シンクは賢明にも口を噤んでおとなしくカンナの後ろをついていった。
目の前で、カンナの栗色の髪が一定の速度で揺れている。
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