出勤の行き帰りで3人もの女性のコートベルト部分にクリーニングタグがついているのを見つけてしまった。
一人目の方には勇気を出して声をかけてみたけれど、あと二人は無理でした。というより、一日でどうしてこんなに…なにかの啓示だったの?
一見関わりのない三人の女性を繋ぐのは、コートベルトの内側につけられたままのなんの変哲もないクリーニングタグ。そして物語が始まる……と一通り頭の中で呟きながら帰ってきました。
三点リードの後で、葉加瀬太郎さんの「情熱」か、中島みゆきさんの「空と君とのあいだに」の冒頭を入れると、それだけで熱く激しいドラマが生まれそうな感じがするのって凄いですよね。
矢野晶子さんだと一気にほんわかドラマ。
まったく今日は寒いですよね。
あとまったく関係ないんですけど、スマホのスケジュールに地名を入れておいたら、
羊のコンシェルジュが「その地域のこと、調べときました!」て、いきなり情報送りつけてきました。
頼 ん で な い よ !
怖い。怖すぎるコンシェルジュ。主人の望まないことを率先してやりおる……。
割引だとかでとりあえず入れてるけど、もう少ししたら解雇しよう。
感情のない目がドヤ顔に見えました。
あのコンシェルジュに悪気がないことは分かってるけど、私はアナログ人間でいいやと心底思った瞬間。
小話ひとつ。
「私はあなたの2」の幕間。 即位前日のザキとひなた。
ついでに「私はあなたの2」の最後の部分を改稿。
まとめ冊子にも入れる予定です。
↓
即位の儀を翌日に控えた晩のことだった。
「なにかあった? 顔色悪いよ」
部屋で執務机についたまま出迎えたザキの顔を見るなり、ヒナタは小さな眉間に皺を寄せた。
相変わらず目敏いと思いながら、大丈夫だと口の端をあげて見せた。だが、ヒナタの表情を見るにうまく笑えたわけではなさそうだった。
「珍しいね。誰もいないの?」
部屋を見回し、分かっているだろうに不思議そうに訊く。
「お前こそ、用件はなんだ」
余計なことを言われる前に促せば、わずかに不服そうな顔をしたがすぐに改めた。踵をぴたりと揃え、姿勢を正す。真正面からザキを見つめると、ヒナタはゆっくりと笑った。
「お礼を言いに来たの。もうすぐ帰ることになりそうだから。この世界に来てからずっと、ずっと、ありがとう」
へりくだったり媚を売ったり感情を取り繕うことのない声は、いつもヒナタの心の内を真っ直ぐに伝えて耳に心地よい。
笑顔がひどく眩しくて、ザキはふと呼吸を思い出したような気がした。すぐ隣の部屋に前王妃シェリアと宰相ヨシュアの遺体がひっそりと安置されていることも夢だったらいいのに。
誰も傍に寄るなと言いながら、ヒナタの面会だけを許したのは、これが見たかったからかもしれない。
この国だけではなく、この世界の理そのものに縛られない少女。
ヒナタはザキの様子に気づかぬまま、感慨深げに窓の外を見つめていた。夜の色の瞳はいつだって星が踊るようにきらきらと輝いて見え、王宮の中庭で捕らえられた際に自害防止のためにと無残に切られた髪はわずかに伸びてその白い頬を縁取り、少年のようにしか見えなかったヒナタに今では女性らしさを添えていた。
月明かりで、ザキの部屋からは中庭がよく見えた。ヒナタが最初に現れた場所。
「ザキくんが助けてくれなきゃ、私とっくにどこかで野たれ死んでたと思う」
王宮に突然現れ、ザキに対してなんら物怖じしない態度で周囲を警戒させ、また脱力させ、見かけによらない行動力と発想で王都に活力を与えた少女に、もはや初めて会ったときの不安気な様子は微塵もない。けれど、真っ直ぐにザキを見つめる瞳は出会った頃と同じまま。
わずかな間に、この少女と、ディレイやルカナート以外これまでに出会った誰ともしたことのない話をたくさんした。ヒナタの世界の話、この国の話。喧嘩もしたし、仲直りもした。力になりたいと願い、信頼されることへの喜びを覚え、不安を打ち明けられる安心感と、受け止められることの心地よさ、子どもの頃のように小さな秘密を共有するこそばゆさを知った。
初めてできた、自分に傅くことのない友人だった。
「この世界で最初に会ったのがザキくんって、私すごく運が良かったよね。王宮に落ちるなんてお伽話みたいだけど」
目の前に歩み寄られ、ありがとうと差し出された手にひやりとした気持ちに包まれる。
「そうだな。お前は、“国王”の元へ落ちてきた。運が良い」
ザキに権力がなければ、この混乱した国でヒナタを保護することも守ることもできはしなかっただろう。
自嘲気味に響く声音に気づいたのかどうか。ヒナタは怪訝そうにザキを見るや、む、と頬を膨らませた。同時に瞳に怒りが混じり、こちらを強く覗き込む。そこには薄く笑いを浮かべた自分が映っており、このたった数日で何倍も年を取ったような顔をしていた。ヒナタはそうは感じていないのだろうか。
ぼんやりとするザキの意識を覚まさせるように、ヒナタの断固とした意志を感じさせる声が割り込んだ。
「ザキくんのところに、だよ。国王だからって私のこと助けてくれたかどうか分かんないじゃん。私を助けてくれたのはザキくんでしょ? それにまだ即位の儀式の前だから、私が会ったのは王様じゃないし」
言いながら、わざとらしくザキを睨みつけていた目を悪戯っぽく細める。ザキに対してこんな軽口を叩くのはディレイかルカナートくらいだ。
なんとも答えず、眉をぴくりと上げて見せたザキに溜息をついて、ヒナタは表情を改めた。
「本当は、牢屋から出してもらった後も、お部屋をもらった後も、すごく怖かった。こんな知らない場所で、突然外に放り出されたらどうしたらいいんだろうって。でも、ザキくんが安心しろって言ってくれたでしょう。元の世界に帰る日まで追い出したりしないと誓うって」
突如現れた異邦の少女に対するザキの処遇に、周囲は様々な反応を見せた。この非常時に素性も知れぬ女を傍近くに置くものではありません、と貴族達は迂遠にも直截にもザキに進言した。
ヒナタ本人を知っているザキにしてみれば彼らの”心配”には失笑するしかない。
ただ、少々毛色が変わっているから手元に置いて観察してみたいと思ったのは間違いではない。
あまりに不安げなヒナタが、この世界で初めて会ったザキに対してだけは無意識に緊張を解く様子に庇護欲が刺激されたせいもある。
名に賭けた誓いなんて大袈裟だとディレイは後で笑ったが、自分の言葉に涙に溶けたヒナタの顔を思い出せば大袈裟でもなんでもないことだと思えた。現にあれからヒナタはよく笑うようになった。
今のように、くるくると表情を変えて。
「あのときにね、本当に嬉しかったし初めて安心できたの。あのときのザキくんの言葉があったから、私、今まで頑張ってこれたんだと思う。ザキくんのお陰だよ。だから、本当にありがとう」
ヒナタは、ザキを見ている。
「……っ」
堪らず差し出された手を引き、ヒナタを抱き締めた。こんな風にヒナタに触れたのは初めてで、小さな体が腕の中で硬直するのが感じられたが構わなかった。
「ど、どうしたのザキくん?」
小さな肩に顔を埋めれば、香も纏っていないはずの首筋からどこか甘い香りがした。
「俺はなんだ、ヒナタ」
「ザキくん?」
「俺は、お前にとってなんだ」
「なんだ、って……ザキくんはザキくんでしょ」
それはどういう意味だと重ねて問うのは恐ろしかった。掻き抱く両腕に力を込める。だが、ヒナタは戸惑いながらも続けた。
「私の命の恩人で、大事な友達だよ。ね、ねえ、どうしちゃったの。あの、なにかあった? もしかして儀式の前で緊張してる? 大丈夫だよ。からかったりしてごめん。儀式なんかしなくたって、ザキくんはもうとっくにこの国の王様だよ。皆がザキくんのこと好きで、誇りに思ってるの、私知ってるよ。この国を守るために一生懸命な人が王様になってくれるのって、この国の人たちはすごく幸せだよね。……ねえ、ザキくん? 本当にどうしたの」
ヒナタはひとしきり言葉を紡いでいたが、自分を抱き締めたままぴくりともしないザキの様子に、やがて沈黙した。
シェリアの死後、囂々とザキの体内を荒れ狂っていた嵐は止み、耳鳴りの音も消え、辺りには不思議な静寂が降り積もっていた。ヒナタのやけに早い心音だけが伝わってきて、それに耳を凝らしていた。
「母上とヨシュアが父上の元へ行ってしまわれた」
(俺に、死んで欲しいと望まれたまま)
小さくヒナタの体が跳ねた。息を詰めこちらを窺う気配を、完全に無視する。
ザキの袖を握り締めるようにしていたヒナタの手が、ゆっくりと、躊躇いがちにザキの背にまわるのを気の遠くなる思いで感じていた。
「ザキくん」
こんなことを唐突に聞かされても困るだけだろうに、それでも微かに震えた声は労りに満ちている。
「ザキくん」
この世界でただひとり、その奇妙な呼び方で自分を呼ぶ声を永遠に聞いていたかった。
「……さみしいね」
或いは、そういう感情が自分の内にもあるのかもしれなかったが、決して認めるわけにはいかなかった。
怒りも憎悪も今はなにひとつわき上がってくることはなく、代わりに枯れ果てたと思っていた涙が込み上げてきそうで固くまぶたを閉じていることしかできない。ヒナタがなにかを言おうとする度に拒むように小さな体を抱き締める。ヒナタはそれでも言葉を探してザキの名だけを何度も困ったように呼び、最後にぽつりと呟いた。
「……でも、ザキくんにはディレイがいるからね」
瞬間、びくりと震えたザキをヒナタはどう捉えたのだろう。幼子をあやすようにヒナタの手がザキの背を撫でる。
「こんなときに、ザキくんがひとりじゃなくてよかった」
ことりと肩に乗せられた彼女の頭の重みと、耳元で溜息のように告げられたその言葉の熱だけが、いつまでもザキの中に残った。
ディレイは、信じてはならない者だ。浮かぶ顔を無理やり脳内から追い払う。
ヒナタがいるから、ひとりではないのだと思った。
帰るな、消えるなと、ザキのすべてで願ったが、ヒナタはある日消えてしまい、ザキの世界も光を失ってしまった。
コメント
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うわぁぁぁ。引越のせいでしばらくご無沙汰している間に、300万hit記念アンケートが始まって終わっている(泣)
半年遅れですが、改めまして300万hitおめでとうございます。
引越先では二人暮らしのため蔵書を大幅に削減しましたが、もちろんwwは優先的に私とともにお引越ししましたよ。
羊、怖いですね。フェイスブックも怖いです。いつの間にか地図欄に「Kraftさんは○○にいました」と書かれていたり。
情報社会は油断できませんが、こちらのブログからは断絶しないようにしなくては! と誓ったアンケートショックでした。
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一年か半年振りくらい?にふと小話とイラスト見たいなーとサイトにきてみたらサイトが表示されないです;;
サイトやめてしまわれたんでしょうか?
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Kraft様>お久しぶりです。いらっしゃいませ! お引っ越しお疲れ様でした。お引っ越しの際に拙本を連れて行って下さったとのこと、とっても嬉しいです。ありがとうございます。
Kraft様のようにこうして遊びに来て下さる皆様のおかげで、300万hitを迎えることができました。
4月までには、なんとかまとめ冊子のお知らせをしたいと思っておりますので、また遊びに来て下さいね。
羊には驚かされてばっかりです。色々機能を切断しているので、多分本来の使い方からはかけ離れていっているような気がします(笑
お返事遅くなりましたが、今後ともよろしくお願いします。
ノラ様>お返事大変遅くなり申し訳ありません。
http://here.x0.com/
こちらのアドレスにアクセスして頂くことは可能ですか?
まだご覧下さっているようでしたら、お試し下さい。
多分見て頂けると思います。
遊びに来て下さってありがとうございます。