静かなる戦い

お盆が一ヶ月後に迫っています。

ということは、つまり、
お盆シーズンにお休みのある、
帰省される人たちの静かな戦いが今朝辺りからこっそり始まったはずです。

今年は同郷の友達とちょっと出雲そばでも食べてから帰ろうかという話になり、
島根に寄り道するために夜行バスを取ることにしました。
お盆休みに入る前日の夜行バスなんて争奪戦必死。

今朝アクセスしたら、9時前の段階で残席4でした。
ぎゃあああああと震える指でかちかちしてなんとか確保!
よしゃあ! 取った-! と思ったら、満席表示に変わっていました。
よかった……なんとか出雲そばにありつけそうです。
あとはこっちに帰ってくる席を確保せねばならないので数日後の予約を忘れないようにしなければ。

実家住まいの人たちにひどく驚かれる、静かなる帰省チケット争奪戦。
この予約をすると、もうすぐお盆だなと思ってしまいます。

(※新幹線の指定席予約などは一ヶ月前の朝からできます)

■今日読んだ本 ビブリア古書堂の事件手帖3

データ整理していたら出てきた、「ありふれたお茶会のための~」ボツ部分。
こかげと三人組が街で遊ぶところを本当は入れたかったのでした。
尻切れトンボにつきご注意ください。


「お帰りなさいませ、コカゲ様」
 ちょうどコカゲの部屋に風を通していたリルは、屋敷の玄関先でコカゲがノインに挨拶する声を聞いていたから、部屋の扉を開けてコカゲを迎えた。階段を上ってくる途中でコカゲはすぐにリルに気付いて、ただいまと笑った。
「部屋の掃除してくれたの? もう、ヒナタのことで忙しいんだからこっちのことはしなくていいからね。でもありがとう。気持ちいいわ」
「町は楽しまれました?」
 うん、とコカゲは大きく頷いた。
 両手に花束や紙袋をいくつか持っていて、結構かさばって大変だったなと机の上にどさりと置く。
「あの三人すごいんだよ。町の色んなところで、景品の出るお店があってね。最初にヨーサムがこんな小さなナイフを的に向かって投げるお店で遊んだら、全部命中して花束貰ったの。
投げて地面に落ちた硬貨の裏表を当てるのに参加したら、シーリーが十回やって十回とも当てたのよ。シーリーって、答えるときにちっとも考えないの。硬貨が地面に落ちるのと同時に店の主人の手の下に隠されるんだけど、その瞬間には裏とか表とかはっきり言うんだよ。それで全部当てちゃうんだもん。周りで見てた人たちも驚いてさ。お店のご主人がもうあんたどっかに行ってくれって、子どもたちに配ってた飴くれたの」
 水差しから水を汲んでコカゲに差し出すと、ありがとうと受け取ってくれる。
「シーリーに凄かったね、って言ったらなんて言ったと思う? 『だって見えてるじゃねぇか』って。確かに硬貨が落ちるの睨み付けるようにして見てるなとは思ったけど、まさか裏表見てるなんて思わないじゃない。冗談かと思ったのに、ラシュがシーリーはああいうの得意なんですよ、とか普通に言うし、ヨーサムもシーリーの目の良さには敵いませんて言うし。ラシュはラシュでカードゲームさせたらやっぱり一番だし」
「やっぱり?」
 うん、とコカゲは何故かにやりとする。
「ま、シーリー手持ちの札の情報が顔に出るじゃない。ヨーサムは無表情だしある程度までは強いんだけど、策を弄するって感じはないの。その点ラシュは期待を裏切らなかったわー。相手がなに言ってもにこにこして聞きながら、最後の最後できっちり勝ちますみたいな。そこで三回勝ち抜いたら果実酒が貰えたの。ほらお土産用の小瓶も貰ったんだよ。皆でそれで乾杯して。シーリーとヨーサムが甘すぎるって変な顔してたのがおかしかった」
「コカゲ様はなにか三人に勝たれたものはなかったんですか?」
 袋の中身をがさがさと出しかけていたコカゲは、肩越しにリルを振り返った。
「連想遊び!」
「なんですか、それ」
「町のお母さんたちが自分の子どもたちに色んな絵を描かせててね、それがなにを描いたものなのか大人が当てるの。結構これが盛り上がってて、なっかなか当たらないの。当てるとその絵を貰えるんだけど、これ見て」
 思い出しているのだろう。くすくすと肩を揺らしながら、紙袋の中から折り畳んだ紙を出して、コカゲが広げて見せてくれた。なにを描いたものか分かる?
 紙面には、真ん中に黄色い丸いもの、その周りを取り囲むように赤い色が塗りたくられている。隙間隙間が真っ黒だ。
「……なんなんでしょうかこれは」
「手掛かりは、これがお祭りの様子ですってこと。シーリーが真っ先に、あれはパンケーキが焼かれてるところだって言い張ったの。あの黄色の丸はパンケーキで黒い部分が鉄板で、赤いのが火だって言うの。ヨーサムはまるで分からないって不参戦。ラシュも考えてたみたいだけど降参して、シーリーがお前らには想像力ってものが欠けてるんだよって笑い飛ばして。私はシーリーが言ってくれたお陰で閃いたんだけど」
「なんだったんですか?」
「これね、広場で篝火を焚いてるのを下から見上げた所なのよ。丸いのはお月様で、この子には夜空一杯に炎が舞い上がっているように見えたのね。黒い部分は夜空だったの。櫓もそこに立っていた聖女もその子には映っていなくて、よっぽど火の印象が強かったんだろうね。うわあこんな風に見えたのかと思って」
 でもさ、くくく、と堪えきれないとコカゲが笑い出した。
「正解発表されたときに、シーリーかなり悔しかったというか恥ずかしかったみたいで、そんな答え俺は認めないとか言ってさ。よりによってパンケーキ……! お腹が痛すぎる。ラシュもお腹抱えて笑ってたんだけど、ヨーサムが顔逸らして必死に笑い堪えてるのも初めて見たよ。想像力過多のシーリーのためにもパンケーキを焼いているところを実際に見に行った方がいいよねってラシュが言ったら、そうだな、あんな炎で焼かれてはパンケーキも焦げてしまうということをシーリーは知った方が良いだろうってヨーサムが真面目な顔で言って、シーリーはお前らふざけるなってかなり抵抗してたんだけど、結局皆でパンケーキ買いに行ったんだよ。馬鹿でしょう」
 で、これはそのとき買ったパンケーキの残り、とまた紙袋から取り出している。お店のおじさんに事情説明したら、爆笑しておまけもしてくれたんだ。
 確かに、こんがりと焼けた黄金色のそれは、子どもが描けば先程の丸になるのかもしれないと思わせた。
「他にも、遊べそうなところには片っ端から顔出してみたからな。景品もたくさん貰えたし、結構三人共むきになったりして、あ、腕相撲大会は町のおっちゃんたちが強かったよ。ラシュたち、近衛隊の上着は着てなかったんだけど、やっぱりなんとなく雰囲気が違うでしょう? お前らには負けん、みたいな猛者がわらわら集まって皆負けちゃった。そしたらおっちゃんたちが凄い盛り上がってんの。男は顔じゃねえんだああ! って。でもその後皆でお酒酌み交わしたりして、楽しそうだったよ」
「聞いているだけでも楽しそうですもの」
 実際、町であの三人とコカゲがどんな風に遊んできたのか、その様子が目に浮かぶようだった。

コメント

タイトルとURLをコピーしました